前回、社内会議の音声は外部の人にとって文字起こしが難しいこと、社内用語(部署名、プロジェクト名、商品名)やその略称が分かりにくいためであることを書いた。
不明処理されて●がたくさん入力された原稿になっては、外注した当の企業はがっかりするだろう。
単純な解決策がある。
社内会議は、文字起こしの会社に外注せず、社内で文字起こしするのだ。
◆かつて大企業にはタイプ室があった
社内で起こすといっても、一般の社員が文字起こしをするのは無理がある。
要約して記録する議事録ならともかく、一字一句言葉どおりに再現する文字起こしは時間のかかる仕事で、他の業務の合間にというのは難しいためだ。
しかも、整文や表記を理解していない人が起こすと、読みにくい原稿になってしまう。
専門職を雇えばいい。
前例はある。タイピストだ。
ワープロ専用機やパソコンが登場するまで、企業では手書きの書類を清書する必要があるとき、
「たくさん印刷するもの→印刷会社に発注」
「たくさん印刷する必要はないもの→社内の和文タイピストに清書してもらう」
と使い分けていたらしい。
(タイピストが常駐しているのは大企業だろう。中小企業がどうしていたかは分からない)
高度成長期に大企業で事務職をしていた人は、
「一般社員は大部屋だったが、タイプ室と電話交換室は別にあった。タイプ室へ清書を頼みに行くのは緊張した」と話してくれた。
一般社員よりタイピストのほうが高い地位という扱いだったようだ。
◆活用例はある!
オコシスト(文字起こし専門職を仮にこう呼んでおく)を雇っている例は少ないが、ないわけではない。
弁護士や弁理士などは、書類に記載する内容を口述して録音→音声ファイルをアシスタントが文字起こしという手順で、仕事を進めていることがある。
ほかに企業内オコシストの話を聞いたことがあるのは、障害者雇用関係。私が知っているのはいずれも目の不自由な人の例だ。
専用のソフトやハードを駆使すれば、パソコンワークは問題ない(というか、見学させてもらったところ、作業スピードが速くて圧倒された)。
目の不自由な人向けの文字起こしの訓練を受けて、その職業訓練施設の紹介で就職した人が、就職先で会議の文字起こしを担当した。
速い。原稿の精度が高い。すぐ、頼りにされるようになった。
その人はいわゆる「福祉的就労」で、給料が安かった。しかし、紹介した職業訓練施設は、これだけ貢献しているのだからと、一般の社員並みの給料を出すよう交渉し、企業は受け入れたという。
文字起こしの技能を身につけた人が、個人事業でも雇用でも、必要なら両者の間を行き来しながら、キャリアを形成していければ素晴らしい。
企業だって、社内の事情を知っている人が社内で文字起こしすれば、内容が行き届いた原稿になって便利なはずだ。タイプ室をオコシストルームとして復活させることをおすすめしたい。