文字起こしを仕事にしよう

2019.10.03

社内会議が文字起こししにくい理由

社内会議の音声を録音し、その文字起こしを外注する企業は多い。私は受注する立場だが、発注する企業の担当者が「なぜこんなに作業日数がかかる?」と思っていることは想像がつく。
「まあ、発言内容を一言一句聞き取ってタイピングするのって、結構な手間だからな。そのせいで社内で文字化できなくて、外注しているわけだから」と、自分を納得させているのだろう。

ただしタイピングの手間以外にも、社内会議の文字起こしを発注する企業が分かっていない、重大なポイントがある。
外部の者にとって、社内用語は英語や中国語より難しいということだ。

 

 

◆シネバの正体を探る

英語や中国語の単語(のうち、一般の単語)は、辞書を調べれば載っている。ネット検索でも見つけることができる。一方、会社の社内用語は、相当な大企業でも辞書にないし、ネット検索でも見つけることはほぼできない。そのせいで作業時間がかかるのだ。

ちょっと例を挙げて…、ただし実際の企業の言葉を取り上げるわけにはいかないので、架空の言葉を作ってみよう。
「死ねば」
死ねばとしか聞こえない。しかし、前後の文脈上、他人に死を勧める発言ではない。文法的に、これはたぶん名詞だ、というふうに推測できたとしよう。

たぶん社内の何か…商品名部署名プロジェクト名? いや、個人名か? シから始まる姓って何があったっけ? いや、英語か?「シネバ」と聞こえそうな英語…「サイン・エバー」、いや、素直に「サイン・ネバー」、そんな言葉はあるか? この文脈に当てはまるか?

◆シネバで納品するわけにはいかない

その会社のウェブサイトで、その会社が手掛けている商品名サービス名をひととおり見る。
ウェブサイトのトップページ下部には普通インフォメーション欄があるから、当てはまりそうな情報があるかを確認する。
子会社一覧を見る。

そんなことまでする必要があるだろうか。
シネバと書いて、納品すればいい。

ただ。もし、シネバと聞こえるものがその会社のヒット商品の名称だったら。
その程度のことも調べずに文字起こししているのか、これでは次の会議は頼めないと思われてしまうかもしれない。

◆「再エ班」なんて分かるわけない

そういう恐怖に取りつかれて、結局どんな言葉も一応はネット検索するはめになる。もちろん、会議資料が支給されれば、いろいろな言葉で検索をかけたり、各ページを必死で見つめたりする。

商品名、部署名、プロジェクト名は分からない。そして、それらの略称はさらに分からない
シネバと聞こえる言葉が、実は「再生エネルギー担当班」という社内の部署名の略で「再エ班」だったりするかもしれない。

知るかそんなもの!

などと、文字起こしをする者は言わない。
「確かに、支給いただいた会議資料の52ページに“再エ班に依頼”という表現が出ていました。確認が足りず申し訳ありません」
と謝ってしまうぐらい、真剣に文字起こしに取り組んでいるのだ。

◆略称表をくれたのは20年でたった1社

こういう苦労と手間ひまの実態を知ったら、社内会議の文字起こしを外注している人たちは驚くだろう。自分たちにとっては、入社したときから知っている、ごく当然の「再エ班」なのだから。

この実態は、事あるごとに発注者に伝えているのだが、なかなか伝わらない。
社内会議の文字起こしに際して、社内の部署一覧と部署名の略称表を資料として支給してくれた会社は、約20年の文字起こし歴でわずか1社だ。

片仮名で書いてくれればいいですよと返事をくれる会社もある。そういう担当者は、「再エ班」が「サイエハン」に聞こえると信じ込んでいるのだ。
社内の用語は、本人たちにとってよく分かっているので、軽く速く発音される。「サイエハン」とは決して聞こえない。シネバとか、その他いろいろに聞こえるだろう。

◆学んでいない人の文字起こし原稿は読みにくい

外部の人間が社内会議を文字化するのは無理がある。
かといって、文字起こしを学んでいない普通の社員が起こすと、タイピングに時間がかかり過ぎたり、ケバ取りや整文のバランスが悪く読みにくい原稿になってしまったりする。

この問題を解決する方法が一つある。
続きは次回