相手と立ち位置を共有するかどうかとか、自分が偉そうに思われてはいけないという配慮が、「なん」「ん」を使うかどうかに影響します。
前回のお客と店員の会話に続き、今回は会議の口調を見てみます。
例えば、官庁が有識者を委員に招いて審議してもらう会議。事務局を務めるお役人は、委員に「これ、ペンなんですか」と質問されたとき、「いいえ、鉛筆なんですよ」などとは普通答えません。
「多少お分かりになりくいかと思いますが、実はこちらは鉛筆になってございまして、ペンと見えてしまうようですといささか私どもの不手際かと思いますので、この点につきましては持ち帰ってさらに検討させていただければと考えております」というような答弁になります。
会議がフォーマルであるほど、「有識者の先生方」に対する事務局のへりくだった口調は強くなります(たとえ裏では万事仕切っているにしても)。一方、委員長がくだけた人で、しかも小さな会議室で小さな議題をアットホームに話している会議などでは、事務局側も「いいえ、実は鉛筆なんですよ」と答えたりします。
このように、あなた様と同じ位置に立つなど滅相もございませんというへりくだりで、「なん」「ん」を使わない話し方があります。逆に、立ち位置を共有する場合は積極的に「なん」「ん」を使わないと、前回取り上げたような「外国人の日本語」になってしまいます。
一方、「ます」形を避けて「です」形にするために、「なん」「ん」を使う場合があります。
違います。→違うんです。
そうだと思います。→そうだと思うんです。
「~ます」より「~んです」のほうがちょっと柔らかい感じになるためでしょう。ですから、クールな雰囲気に文字起こししたい場合は、逆に「ます」形に変更するという手法が使えます。
無理だと言われたこともあるんです。→ 無理だと言われたこともあります。
こんなビジネスを立ち上げたんですね。→ こんなビジネスを立ち上げました。
日本語の話し言葉は、最近「ます」形を避けて「です」形に収れんしようとしている。
という内容が、たしか…。自宅の本棚の上から3段目の…。ちょっと確認してみます。次回をお楽しみに。
(余談ですが、実際の音声の中に出てくるようなリアルな口調を再現するには、「いいえ、鉛筆なんですよ」でもまだリアル感が足りません。事務局の答弁の2パターンどちらにも、「実は」というフレーズをごく自然に入れてしまいました)