私が中学1年のとき、英語の教科書には、こういう会話がありました。
Is this a pen?
No, it isn’t. It’s a pencil.
授業中、クラスの男子が「こんな会話、覚えても意味ない」と言い出しました。「これはペンですかなんて、人に聞いたことあるか? 見れば分かるじゃん」
たしかに、クラスの誰も「これはペンですか」「いいえ、違います。鉛筆です」などという会話はしたことがありませんでした。でも。
「キミたちも実はそういう会話をしてるぞ。この和訳と少し違うだけだ。しかし、和訳を工夫しているとテストの時間が足りなかったり、教師側も採点が大変だったりするから、学校ではこういう和訳で統一する。英語としてはちゃんと通じるから、この英語を覚えろ」
…というふうに、教師が説明してくれたらよかったのではないでしょうか。
(「1本の」ペンと訳さなくてよい理由は、説明を受けた覚えがあります)
日本語の会話としては、例えばこんな感じのほうが自然です。
「これ、ペンなんですか」「いいえ、違うんです。鉛筆なんですよ」
「えーっ、鉛筆? ちょっと見せてもらっていいですか。あ、ホントだ」と、会話が続くところがイメージできます。お菓子そっくりの入浴剤などと同様のおもしろグッズかなとか、情景まで浮かびます。ペンかどうかを質問するというシチュエーションは実在すると、中学時代の自分に言ってやりたいぐらいです。
「これは」の「は」という格助詞を抜くとか、「鉛筆なんですよ」と終助詞「よ」を付けるなどが、話し言葉っぽさを出しています。「なの」「の」(実際には「なん」「ん」)が入るのも、話し言葉っぽさにつながっています。
格助詞や終助詞はなんとなく分かるとして、「なん」や「ん」はいったい何なのでしょうか。okosoメルマガで情報提供をお願いしてみたところ、品詞についてメールをいただきました。
助動詞の「だ」が連体形「な」に変化して「の、ので、のに」にくっつくのだそうです。
「ペンなんですか」→「ペン(名詞)」+「だ(助動詞)」+「の(助詞)」+「です(助動詞)」「か(助詞)」
「違うんです」→「違う(動詞)」+「の(助詞)」+「です(助動詞)」
なるほど。「なの」と「の」が存在するんじゃなくて、「な」(終止形は「だ」)と「の」があるんですね。
そして、前の言葉が名詞の場合は「花なんです」「鳥なんです」などと「な+ん」を使い、前が動詞や形容詞などの場合は「ぶつかるんです」「多いんです」などと「ん」を使うわけです。
さて。
テープ起こし(音声起こし)とは、話し言葉を文字化する作業です。文字として書かれたものは、もう話し言葉自体ではありません。
AさんとBさんの会話は、AさんとBさんの人間関係を基本にしています。それを文字にするのは、本人以外が読むためです。ですから、AさんとBさん以外の人間にとって読みやすくなければいけません。
読みやすく文字化しようとすると、まず「なん」「ん」がくどく感じられて処理に迷います。「これは」の「は」など格助詞の抜けも多いと読みにくいし、終助詞もいっぱい付いているとしつこくなります。終助詞は、実際にはもっとたくさん付いていることもしばしばです。
自然な会話の例:
「これ、ペンなんですか」「いいえ、違うんです。鉛筆なんですよ」
もっと終助詞がたくさん付いているけど会話としては自然な例:
「これ、ペンなんですかね」「いいえ、違うんですよね。鉛筆なんですよ」
「これはペンですか」「いいえ、違います。鉛筆です」で意味は十分通じるのに、なんで話し言葉だと、私たちはいっぱいゴタゴタと付けたがるのでしょうか。話した雰囲気を残しながらも読みやすくするためには、テープ起こしではどんな処理をするべきなのでしょうか。
次回は、「なん」「ん」の意味から考えます。