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上手な録音起こし方の基本

話し言葉の処理の最近のブログ記事

前回の疑問点をもう一度リストアップしてみよう。これらはいずれも、「しゃべり方」を再現すべきかという疑問といえる。

 

テープ起こしは、聞くための言葉を読むための言葉に変換する仕事だ。「しゃべった内容」は再現すべきだが、しゃべり方の再現はほとんどの場合さほど必要とされていない。

しゃべり方の再現を重視しようとしすぎると、「えーと」「えっと」「えっとー」「っと」のどの発音かなどという、不毛な悩みに時間を取られることになる。作業効率的にも、過度にしゃべり方の再現を重視するべきではない。

 

◆こんな発話あるいは発声は文字化すべきなのか
1)「今ー」「広げてー」などと伸ばしている音は「今ー」と文字化する?
2)「えーと」「あのー」は文字化する?
3)たくさん出てくる「こう」は文字化する?
4)冒頭の「えっとすいません」は文字化する?
5)「伺っているんですけれども」は「伺っている“の”ですけれども」に直すべき?
6)「思ってる」は「思って“い”る」に直すべき?
7)「思ってるんですけど」「買おうと」という終止形で終わらないセンテンスの処理は?
8)くだけた言い回し「だとか」「なんか」などはそのまま文字化する?
9)「取材、の内容」という、言葉に詰まって間が空いた感じは再現するべき?

 

このうち、1、2、3、4、9が同じ検討グループ(仮にAとしよう)に入り、5、6、7、8が同じ検討グループ(Bとしよう)になる。

 

◆起こさないグループと直すこともあるグループ

Aは、しゃべり方のうち、起こさない(削除する)ことの多いグループ。オコシストはこれをケバと呼ぶことが多い。

 

Bは、しゃべり方を直して文字化することもあるグループ。オコシストはこれもケバに入れたり、整文と呼んだりする。
整文というのは誤解を招きやすい言い回しなので、私はあまり好きではない。「文を整える」という漢字を見ると、センテンスまたは文章全体に手を入れるイメージだが、実際には整単語・整センテンス・整文章の各レベルが存在する。

 

※整単語・整センテンス・整文章…私の造語。
※いわゆる「整文」にはもっといろいろな項目がある。それはまた今度。

 

まず、Aグループを処理して様子を見てみよう。

 

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私は、『話し言葉と書き言葉 テープ取材のテクニック』と『会議録作成入門 200のノウハウ・テクニック』を、テープ起こしのテキストとして日ごろ参照している。

『話し言葉と書き言葉 テープ取材のテクニック』(藤村勝巳著、テープリライト株式会社)
録音しながら取材し→文字起こしを行い→記事にまとめるまでの一連のノウハウを取り上げている。テープ起こし作業については、多少手を入れて、後の編集工程で扱いやすい発言記録を作るテクニックを解説している。

 

『会議録作成入門 200のノウハウ・テクニック』(吉川欽二著、株式会社ぎじろくセンター)
議会の会議録はいわば証拠として永年保存するものであり、その会議録に主観的に手を入れすぎれば公文書偽造に問われる危険さえあると、著者は指摘する。正確な逐語記録を作るためのノウハウを解説している。

 

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つまり、この2冊の書籍はマスコミ系・議会系とフィールドが違うだけでなく、音声の「起こし方」も全く違う。加工しやすさを意識して起こすノウハウが『話し言葉と書き言葉』に、記録としてそれ自体を残すためのノウハウが『会議録作成入門』に詰まっている。

 

これだけ違う2冊だが、発声された言葉を何から何まで文字化すると読みにくいことは、共通して指摘されている。

 

では、何から何まで文字化しない場合、何をどう処理したらいいのか。連載第2回と第3回で例に挙げた発話は、言い間違いとそれを直そうとする発話がポイントになっていた。今回は、それ以外の問題も雑多に含む例を挙げてみよう。

 

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「言い間違い」や「言い間違いを直そうとする発話」までも起こすという、特殊な用途もある。例えば、次のような用途が考えられる。

 

◆特殊な用途1 言い間違いにも注目する用途
例えば、発言者本人がいかに言い間違いに気づき、どう直したかを記録する必要がある用途。言語学や心理学などの研究用の発言記録などには、こういった仕事がある。
また、マーケティングリサーチ用の聞き取り調査では、例えば「サッポロ…違う、アサヒビール」などの発言が、ブランドの認知について参考になるケースがあるので、言い間違いも注目されることがある。

 

◆特殊な用途2 映像加工を指示する用途
映像編集用
に「何でも再現」の起こし方が使われる場合がある。長い映像から音声を文字起こししておき、その文字記録をシナリオ的に使って、映像を切り出してつなぐ位置を書き込んで指示するものだ。
例えば、発言は言い間違いであっても、その部分の話者の表情がよく、映像として使いたいとする。言い間違いだが、声を消してナレーションのバックに使うことはできる。発言記録を印刷した紙にその指示を書き込む。そういう用途に使われる場合は、言い間違いも起こしておかないと指示が書き込めない。

 

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セミナーでは、課題提出後の評価会で「どう処理するのが正しいのか」という質問が必ず出る。一つの正解はない。仕様による+用途による+発注者の考え方による、としか答えられない。では、どのような仕様・用途・発注者の考え方であれば、どういう言葉を・どう処理するのが・比較的まし、なのか。

 

◆テープ起こしに一つの正解はない
「仕様・用途・発注者の考え方」の組み合わせは無数にあるだろうから、それぞれについて正解を提示することは現実的ではない。だいいち、どの条件に対しても、おそらくただ一つの正解はない。探るのは「比較的まし」な方法であり、「正解なのか」という問いは立てない。

 

などと抽象的なことを書いていても理解しにくいので、しゃべり言葉がどんなものか、一例を挙げよう。

 

しゃべり言葉の例
「昨日ですかね、夜中、月曜日の納品だったんですね。月曜日、今日は何曜日だ、火曜日でしたっけ。あ、ごめんなさい、火曜日の10時、今日の朝納品のものがありまして。」

 

drill.jpgこれは私の著書『テープ&音声起こし 即戦力ドリル』に収録した「総合問題1」の音声の一部。実際の発話というのは、文字どおりに再現すると理解しにくいことが分かる。

 

もし目の前の相手が上のようにしゃべったとすると、火曜日の午後にそれを聞いている私たちは、重要でなさそうな部分は無意識に聞き流す。「今朝納品する仕事があったんだな」と、大ざっぱに要点をとらえている。
大ざっぱに要点をとらえるのが、話された言葉を → 聞く ことの特徴だ。耳と脳の要点抽出処理は優秀なのだ。

 

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今日から不定期連載するこのシリーズに【話し言葉の処理】というタイトルを付けた。
本当は【しゃべり言葉の処理】というシリーズ名にしたかったが、「しゃべり言葉」という言い回しは定着していないように思えたので「話し言葉」にした。
「話し言葉」には、整った語感がある。しかし、実際の私たちの発話というのは「しゃべる」という語感のほうが近い。整っていないのだ。

 

だから、正確に再現すればするほど、読んだとき理解できないものになっていく。あるいは、文章として読むには違和感のあるものになってしまう。話し言葉を忠実に文字化するとはどういうことか、忠実に再現しないとすればどのように処理するか。本シリーズではその問題を考える。

 

◆テープ起こしに「ねじれ」は必然的
そもそも、話し言葉というのは聞くものだ。

 

話された言葉を → 聞く
書かれた言葉を → 読む

 

テープ起こしの仕事は、口頭で発話された言葉を文章化する。受け手側は、口頭で発話された言葉を文章として読む。そこに、次のような「ねじれ」が生ずる。

 

話された言葉を
        → 読む

 

話された言葉をどう処理すれば、このねじれを緩和して、文字化・文章化・文書化できるのだろうか。

 

※文字化・文章化・文書化は意味が違う。しかしこれらの用語を厳密に使い分けるのは困難なので、本シリーズではそのときどきの流れで使ったり、このように並べて使ったりする。また、テープ起こしを職業にする人の呼び名として「オコシスト」を主に使う。


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